先日、Rana生誕祭のタイミングで新作『虹の絵の具皿』を公開しました。
ファイルの作成が2021/8/12とあるので、完成まで1年近くかかったみたいですね……。
とはいえ、前半は最初の1ヶ月、後半は最後の3日で作っているので、ずっと作り続けていたわけではないんですけどね。
<きっかけと作品選び>
敬愛する藤井喬梓先生の作品集で、『イーハトーブからの手紙~子供のためのピアノ曲集』というものがあります。
「イーハトーブ」という名前からも分かるように、宮沢賢治を題材にしています。
子ども向けということもあって難易度は高くないのですが、シンプルな曲調でこんなに深い世界観を描けるのか! と感動したものです。
それを見習って、自分も宮沢賢治作品に曲をつけようと思ったのが制作の発端です。
曲集に含まれている作品を使うと二番煎じになりそうだったので、まだ題材に選ばれていなかった『十力の金剛石』を選びました。
決め手は「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。」あたりの部分ですね。
作品の中に歌の部分が多く含まれていたので、音楽をつけやすそうな気がしました。これがあとで問題になるわけですが……。
<曲調>
今回は自分の好きな要素だけで作ろうと思っていたので、必然的に「シンプルな編成」「五音音階(ペンタトニック)」「変拍子」になりました。まあ、何も考えずに作るといつもこうなりますが……。
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイツイ、トン。」にすぐメロディが付いたので、冒頭はスムーズでしたね。
←メロディラインが「ソ、ラ、シ、レ、ミ」の5音で構成されています。
(※逆に伴奏のピアノが5音から外れるのもポイント!)
続く「ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ」と「降らばふれふれ、ひでりあめ」の部分は二重唱になります。
原作でも2羽の蜂雀が歌っているので、妥当な解釈かな、と思ってます。
伴奏は5拍子の動きが浮かんだので、それを使いました。あれ、歌は4拍子のような……?
←個人的にお気に入りの部分。
五音音階の特徴は「半音階が含まれないこと」なんですよね。
どゆこと?って話なんですが、つまり「音階のすべての音を同時に鳴らしても、音が濁らない」ってことなんですよ。
多くの曲は和音とかの都合で、1拍でもメロディと伴奏がズレると即不協和が発生するんですが、五音音階はそうならない。
変拍子の強い味方ですね!
そんな感じで、交互に歌わせたり、1小節まるごとずらしたり、そこそこ順調に進めていたわけなんですが……。
<問題発生>
曲が進まなくなりました。何が起こったかというとですね……。原作の中での歌の部分が終わってしまったのです……。
小説部分をそのまま使うと、なんというか、朗読の劣化版になりそうで……。
という感じで進捗がないまま、なんと1年近くが経過……。
<今年のRana誕どうする?>
去年度のRana生誕祭も投稿自体はしていたわけですが、『L↻↻P』収録の過去曲だったり、生誕祭以外の新規投稿も『Γαῖα』の2020年だったり……。
生誕祭に合わせた新曲は『Forerunner -先駆者-』でまさかの2018年……。
さすがに出してなさすぎるな、と思って急に焦りだしました。
毎年8月は繁忙期なので、手を付け始めたのが9月に入ってから……。でも進まない!
そうだ、小節とか拍に合わせるのを諦めよう。(自棄)
←気合で読むべし。
なんかよく分からない拍子の伴奏ができたので、それに合わせてメロディを制作。
もうボーカルを楽譜で表すのが面倒になってきました。
植物が「十力の金剛石」について教えてくれるシーンですが、実際、小説のように順番にしゃべってくれるんですかね?
現実世界でも、風が吹けば各々の植物が別々に体を震わせますし。
それなら、前の言葉が終わる前に話し出しても問題ないですよね!
そして、使いたい言葉を抽出しつつ3連符とかを組み合わせてラストスパート!
どうしても使いたかった、
「一本のさるとりいばらがにわかにすこしの青い鉤を出して王子の足に引っかけました。
王子はかがんでしずかにそれをはずしました。」
の部分を入れて完成!
やった! 間に合った!
<世界観とか>
今更ですが、『十力の金剛石』の世界観について。
主人公である王子と従者の2人の少年は、「虹の脚もとにルビーの絵の具皿がある」という話から、宝石を探しに行きます。
森の中に迷い込んだ二人は、帽子の飾りであったはずの蜂雀や宝石の花が歌う、不思議な空間に迷い込みます。
そこでは宝石の雨が降りますが、どうも草花が求めているのはもっと素晴らしい「十力の金剛石」であるらしい……。
……という話です。
ネタバレをすると、「十力の金剛石」は「露」でした。
どんなに美しく飾ろうとも、水がなければ生きてはいけない。
もしくは、水よりも宝石のほうが高い価値を持っていると考えるのは人間だけだ、ということかもしれません。
何にせよ、賢治の考え方を如実に表した作品と言えます。
象徴的なのは、「さるとりいばら」の存在です。
森に入るときに王子の服にその鉤のような棘が引っかかるのですが、王子は面倒になって剣で切ってしまうんですね。
ただ、森から帰るときには引っかかった棘を切らずにはずします。
不思議な体験をすることで、自然への畏敬の念というか、やさしさが芽生えているわけですね。
制作にあたって、この心情の部分はどうしても表現したいと思っていました。
完璧とは言えませんが、それなりにはうまく表現できたのではないかと思ってます。
<あとがき>
人間、がんばれば割といけるんだなー、と思いました。
できれば焦って作りたくはないんですけどね。
以前友人から「ボカロのメインストリームの曲調ではない」って言われたんですけど、まあ確かにそうですよね。
そういう事情もあって、今回は再生数とかまるで気にせず、作っていて楽しいものを目指しました。
でも、もうちょっと聞いてくれてもいいんじゃないかなぁ……?